
私たちリーフエッヂが運営する就労支援施設「あまみん」では、農福連携に取り組み、幅広い福祉サービスを提供しています。
利用者さんたちは、約20名。
近隣のフルーツ農家のお手伝いや自社ハーブ園で作業する農作業チーム、労働対価として受け取る規格外フルーツなどでジェラートを製造するチーム、そして、自社栽培のハーブからハーブティーを製造するチームがあり、各自の体調や状況に合わせたさまざまな仕事を担当しています。
連日多くの方からご好評いただいている「ジェラテリア あまみん」のジェラートも、こうしたご縁から旬の時期のフルーツを仕入れたり、規格外品を受け取って作っているんです。
フルーツ系フレーバーのジェラートを召し上がった方からはよく、「まるでフルーツを食べてるみたい!」という感想をいただきますが、それもそのはず。果汁を約50%使用し、色も香りも、添加物を使わず果実そのものを活かすことができています。
日々たくさんの果実を加工しながら、実はずっと、ある可能性を探っていました。
それがいよいよ具体的な展開になり始めたので、ここでお知らせさせてください。
それは、未利用資源の活用です。
「みりようしげん」。聞き馴染みがない方も多いと思いますが、まずはその背景からご紹介します。
もったいない。知られてないけど目の前にはある「未利用資源」に着目

果実やハーブを加工していると、必ず出るのが果皮やタネ、搾りかすといった加工残渣(ざんさ)です。
また、農家さんによっては管理しきれないほどの余剰作物や、耕作しきれない圃場での作物が出ることも。
それから、一つひとつの味を甘くて大きなものにするために、果樹作物は「摘果」と呼ばれる間引き作業が欠かせず、間引いた幼果は大抵、捨てられています。
これらは全て、人知れず存在することが多く、それ故に利用されることもない、未利用資源です。
こうした、すでに自分たちの足元にあるものをどうにか活かしたい、と活用方法を模索していました。
未利用資源を生かすことで付加価値が生まれ、「あまみん」利用者さんたちにも、原材料を育てる農家さんにも、さらにこの地域にも良い。
そんな活用方法はないかと考えて始めたのが、摘果たんかんの果皮を活かしたエッセンシャルオイル(精油)づくりです。

摘果たんかんの精油づくりに関して、最近の歩みを少しご紹介します。
農家さんたちとの連携スタート
もともと「あまみん」では、ジェラートとフレッシュジュースを製造するために、年間約2トンのたんかんを仕入れており、当初はその残渣の活用を検討していました。
しかし、摘果たんかんが活用されてないことを知り、奄美各地で栽培されている主要作物であることを考えると、相当量の未利用資源だと思いました。
たんかん栽培では、実がついたばかりの時に行う粗摘果と、より良い収穫物のために行う仕上げ摘果で、一般的に2〜3回の摘果作業が必要とされています。
いい精油を採るために、願わくば果皮にしっかり油分が含まれて、且つ、果皮表面に農薬が残ることがない時期に、摘果たんかんを活用したい。
地域の農家さんたちに相談しながら可能性を探りました。

(柑橘は実が成熟する前から果皮に油を含み、大切なタネを保護している)
農家さん側の状況はこんな感じでした。
・精油に適した摘果のタイミングはある。
・しかし摘果作業には経験値が必要。最終的な収穫に影響が出るのは困る。
・摘果はその場に捨てるもの。カゴに納める等、新たな作業増には対応できない。
それならば、と「あまみん」農作業チームの人材を活かす提案をしたところ、好意的に受け止めてくれました。
・農作業チームが、農地の草刈りなどを担当する【社会的役割の獲得】
・摘果作業は、経験値のある農家さんに有償で依頼する【雇用創出】
・間引いた摘果たんかんは、生産者から正規に購入する【農家の収入向上】
農家さんにも、地域にも貢献できる。農福連携ならではの、「あまみん」らしい提案ができたと思います。

(安全な作業環境のため、下草の除草作業などを「あまみん」農作業チームで担当。
ゆくゆくは摘果を学び、将来的には利用者さんたちに担当してもらえることが理想的))
製造体制を整え、学術連携も
精油は通常、数滴ずつ使われるため、一般的には10〜30mlなどの小瓶で販売されています。
奄美を訪れる観光客の皆さんが気軽に、奄美のお土産品として世界各地へ持ち帰ってくれたら、地域活性の可能性も拡大するはず。
「あまみん」利用者さんにとっても、「自分の仕事が島に貢献できる」としたら、それは大きな大きなモチベーションです。
みんなが安心して使える精油を製造したいと考えて、アロマの香りを損なわない減圧蒸留装置を導入しました。
担当スタッフふたりには、奄美在住のハーバリスト・石丸沙織さんによる研修も実施しています。
試作を重ね、品質クオリティが定まり、いよいよ具体的な手応えを掴んだ2025年夏、奄美群島広域事務組合による「島っちゅチャレンジ応援事業」に採択されました。
そのおかげで、農福連携に関する専門家の吉田 行郷さん(千葉大学 大学院 園芸学研究院)と、世界遺産など保護地域の活動を研究する町田 怜子さん(東京農業大学 地域環境科学部)の両教授をお迎えし、学術連携の道筋ができました。
ここからは、先生方とともに奄美の生産者さんを訪問した視察の様子をご紹介します。

専門家のお墨付き。三方よしで広がる未利用資源の可能性
まずは龍郷町にある叶 幸治さんのたんかん農園へ。
叶さんは、三町歩(約3ヘクタール)の農地でたんかんを作り、一部で別の柑橘「つのかがやき(津之輝)」を栽培しています。
ポンカンとネーブルオレンジの自然交配であるたんかんは、糖度の高さで知られていますが、清美など複数の品種を掛け合わせて生まれたつのかがやきも、糖度は13度以上。
甘くて食べやすく、他の柑橘類と出荷時期が異なることもメリットのひとつです。
しかし栽培には細やかな管理が必要で、果皮にコルク状の斑点ができる「かいよう病」になることも。
「かいよう病が出るとその後の成長によって皮が割れてしまうため、商品としては出せません。通常は摘果で全部取ってしまうのですが、田中さんが『果皮には油が入っているので精油は取れる』と買ってくれることになり、ありがたいです。捨てていたものから新しい価値が生まれるなんて、すごいですよね。精油を取った後の繊維もぼかし肥料にしたり、有機物として畑に戻したり、無駄がないこともすごく良いなと思いました」(叶さん)

(当社と長いお付き合いの叶さんは、お父さんと一緒に農業を営む他、現役の市議会議員としても活躍する。奄美の未来を考え、地域課題に真剣に向き合う多忙な日々)

(出荷時期は、つのかがやきが12月頃、たんかんが1〜2月頃。「どちらも3月にはまた芽吹くので、収穫したらすぐ剪定作業をします。たんかんは木が休む時期がないほど、すぐまた芽吹くんですよ」と、叶さん)

(摘果つのかがやき。果皮に茶色い「かいよう病」が見られるが、油分が含まれていて、果実には果汁も)
叶さんの農地で摘果を担当してくれる農家さんは、飯田 圭太郎さんです。
「普段メインで栽培しているのは、マンゴーと、つのかがやきです。将来的には、たんかん栽培も考えているので、こうしてベテランの叶さんの農地で摘果を手伝わせてもらえることはとても参考になります。マンゴーも柑橘も、あまみんに出すことで加工や製造をしてくれて、人手が必要な時には草刈りなどもしてくれるので、私たち農家は栽培に集中することができています」(飯田さん)
飯田さんは「あまみん」農作業チームがお手伝いに行くことも多い、ご近所のマンゴー農家さんです。
本来この時期はマンゴー栽培も忙しくなる時期ですが、天候などの理由から2025年は残念ながら不作とのこと。
そのダメージを少しでも補えたら、という背景もあって摘果作業を受けてくれました。

(飯田さんは神奈川からのIターン。奄美出身の奥さまと共に、就農11年目を迎えた)

(Iターンの新規就農や農地継承のこと、農産品の販売方法に、光センサーの導入についてまで、会えば尽きない話題の数々)

(写真左からライターやなぎさわ、町田教授、飯田さん、叶さん、吉田教授、田中)
そして先生方には、摘果たんかんの蒸留も見学してもらうことができました。
水と一緒に攪拌した摘果たんかんを蒸留器の釜に入れ、釜の内側に回された管に約100度の蒸気を通すことで、間接的に温めていきます。
加温によって芳香成分を含んだ蒸気が上がり、それをチラーという冷却装置で冷やして液体化させ、比重が低い精油だけが分離する、という仕組みです。

(当社の蒸留器。壁の向こうの冷却装置と繋がっている。焼酎の蒸留として大型蒸留器は地域でもおなじみだが、アロマ用でこの規模の蒸留器はおそらく島内でここだけ)

(たんかんの採油率は約1%。100キロのたんかんから1リットル採油できる)

(プロジェクトを担う担当スタッフは、蘇ひかりさん(左)と手島茉利さんのふたり。毎月ハーブの研修も真剣に受講してくれています)
そして翌日は、当店でもひときわ鮮やかなジェラート「魅惑のドラゴンフルーツ&パッションフルーツ」の生産者さんたちを訪ねました。

(奄美群島観光物産協会が主宰する「あまみ島いちばんコンテスト」で優秀賞を受賞したこともある、名実共に人気のフレーバー。ふたりの教授も「おいしい!」と喜んでくれました)
パッションフルーツを栽培するのは、小湊の岩越隆志さんです。叶さんに紹介していただいて以来、規格外品になったパッションフルーツを仕入れています。
「パッションフルーツは毎年苗木を更新していて、ハウスで栽培しています。大体10月頃に定植して、収穫時期は翌5月末〜7月中旬ですね。規格外になってしまうものは、小さすぎたり軽すぎたり、色ムラがあるもの。それと高温障害や受粉不足などで、色がつかないまま落ちてしまう『青落ち』と呼ばれるものです。全体量の1割くらいですかね。味はおいしいので、以前は売値を下げて市場にも出していたんですが、1キロ200円ほどにまで下がってしまったので、出荷するのをやめました。あまみんさんに買い取っていただけるのは、本当にありがたいです」(岩越さん)

(パッションの苗木。岩越さんのパッションフルーツは、奄美のふるさと納税で購入できる他、個人販売、地元の市場、また成田空港の近くにある「道の駅 風和里(ふわり)しばやま」にも出荷している)

(前職の福祉事業所が農業部門を興したことで農業に携わり、事業撤退時に個人で継承した岩越さん。奥さんと一緒にジェラートを食べに来てくれたことも。「食べた時、あー、これこれ!うちらのパッションの味がする!と思いました」)

(2025年は地域の農業用水の水道管に破損事故があり、水が使えないという大変な事態を経験。ハウスを保有する農家には行政が一時的に4トンの水タンクを設置した。「いちばん水が必要な時だったので、初めはジョウロで水をあげ続けて腰を痛めたりして、大変でした」)
続いてドラゴンフルーツは、瀬戸内の広野裕介さん。たんかん栽培と並行して、約300本のドラゴンフルーツを育てています。
「ドラゴンフルーツの収穫時期は、年に4〜5回あるんです。規格外になってしまうのは、全体の1〜2割ほどですね。大きすぎたり小さすぎたり、カタツムリやアリが歩いて傷のようなものが表面に付いてしまったり。晴天が続いた後で急に大雨が降った時などに、急激な吸水によって少しだけ実が割れてしまったものなどです。割れるのは完熟のサインでもあるので、市場に出すと敢えて割れたのを選ぶコアなファンの方もいるんですが、でも値段はやっぱり下がってしまいます。味はもちろん、ミネラルなど豊富な栄養も変わらないので、あまみんでジェラートになって、いろんな人に喜んでもらえることはとても嬉しいです」(広野さん)

(訪問時はちょうど色鮮やかな時。広野さんのドラゴンフルーツはとにかく発色がよく、ジェラートにした時も本当に華やか)

(たんかんのおいしさに魅せられ、そしてドラゴンフルーツが大好きという理由から、両方を育てる農家になった広野さんは、元料理人。「朝食とかお風呂上がりに食べるドラゴンフルーツは、特に最高です。甘みがさっぱりしているのでパクパク食べやすいんです」)

(採れたてのドラゴンフルーツをふるまってくれた。鮮やかな色彩や断面の美しさを見せる、この切り方が食べやすいとのこと。実は加工後の皮も活かしたいと思って次なる課題を思案中なんですが、それはまた別の機会に))

(2023年の台風ではたんかん農地が被災したが、場所を移して現在もたんかん栽培を継続中。このドラゴンフルーツの農地も土砂に埋もれたが、シャベルで掻き出し、見事に復活した)
視察を終えたふたりの教授、「期待大」
「以前からあまみん・田中さんとは、オンラインでご一緒したり、学生たちがインターンとしてお世話になったりして、他に類を見ないユニークな取り組み内容に加えて、すごい行動力だなあと思ってきました。つい昨年、アロマの蒸留を考えている、と聞いたところから、あっという間に製造ラインができてるんですからね。
今回は農家さんたちともお会いできたことで、田中さんとの関係性の良さが伝わってきました。農福連携にはいろんな可能性があり、実際、取り組みのかたちも事業所によってさまざまではあるんですが、こんなにもあらゆる工程で自主的に関われるところは全国的にも珍しいでしょう。原材料にはしっかり地域の資源が活かされていて、加工も製造も販売も、全てのプロセスに自ら関わっている。利用者の方々も仕事に誇りを持っていて、休憩時間には自らジェラートを買いに行く人も多かったですし、私たちにもたくさん説明してくれました。
これから未利用資源による経済価値と地域への波及が、どのような経済効果を生むのか。農業経済学を専門とする立場として、効果の証明を行うことも課題だと思いました。新規就農など地域の取り組みと共に、大いに期待しています」(吉田教授)

(農福連携に長く携わり、全国のいろいろな施設の活動をよくご存知の吉田先生))
「今回は、世界自然遺産である奄美の環境文化に触れながら、ここで生業を営む農家さんたちともお会いできて、とても充実した視察でした。田中さんが幅広く地域活動に関わりながら福祉事業をしているからこそ、誰も何もできずにいた未利用資源に気持ちが向くのだと思います。
また、こうした福祉の充実や資源循環の取り組みも、国立公園や世界遺産の奄美だからこその説得力があると思いました。私自身、畑や蒸留所でハーブの良い香りに癒されて、この豊かな自然環境をより一層楽しめました。
今後、保護地域における持続可能な活動になりそうだと感じたことは、来訪者向けのアクティビティを展開することです。自然・生業・暮らしがつながる奄美での体験を通して、未利用資源の存在に目を向け、香りを味わいながら、生産者さんのお話を聞く。蒸留体験や生産者との交流は、より多くの方にとって気づきと学びになり、同時に、奄美の魅力を発信できるのではないでしょうか。また、各地にある世界遺産の情報発信地からも、地域をより良くするこうした事例を発信する機会があると良いなと思いました」(町田教授)

(生産者さんへ細やかに質問を重ね、「時期によるニーズのマッチングなど、更なる可能性がありそう」と話す町田先生)

(先生方をお迎えした視察は連日楽しく充実の日々でした。当社ハーブ畑ではライターやなぎさわもこの笑顔)
両教授をお迎えしたことで、これから始まる精油「奄香(あまかおる)」の展開が一層楽しみになってきました。
利用者の皆さんにも精油を作ることはお伝えしているのですが、まだ精油に対してはピンときていないようです。しかし、シーズンの度にたんかんの皮を剥いてくれているのは、利用者の皆さんです。たくさんの皮が廃棄されていることも見ているので、「果皮から新商品が生まれる」ということについては、とても喜んでくれています。
自分たちの仕事、労力、時間が、ちゃんと意味のある価値になること。将来的に工賃が上がるだろうといったことではなく、みんなの仕事が無駄にならず、誰かの役に立つということを、嬉しそうにしてくれています。
「奄香(あまかおる)」はこれから、2026年春の販売に向けて熟成期間に入ります。安全のための残留農薬検査はもちろん、摘果の時期や摘果の状態によって油の成分がどのように違うのかなども比較調査をする予定です。
またアロマのサイドプロジェクトもたくさんのアイディアが同時進行していますので、どうぞ引き続きご期待ください。

(撮影:CHARFILM)
(編集:やなぎさわまどか)
